学校教育とジェンダー、ジェンダーフリー教育
特定非営利活動法人 シーン(SEAN)代表 遠矢 家永子 ジェンダーフリー教育の必要性
1997年、保育サポートグループとして、NPO法人SEANは結成しました。2001年、民間の助成金で子育て中の母親を対象とした期間限定の電話相談事業を行った際、ジェンダーが子育てにおける母親の孤立や協力者・情報の欠如を生み出している現状を目の当たりにしました。一度抱えたジェンダーによる罪悪感や不安感は、拭い去るのにとても時間を要すること、またその状態をさらに追い詰める二次被害の問題にも気づきました。
子育ての問題以外でも、ドメスティック・バイオレンスや性暴力、いじめ、中高年の男性の自殺に至るまで、様々な差別、自他への抑圧、暴力などの根っこにジェンダーの問題が存在することに気づく中で、その問題の再生産や連鎖を断ち切り、これ以上子どもたちを被害者にも加害者にもしないためのジェンダーフリー教育の必要性を強く認識しました。
2002年には別の民間助成金に申請を出し、「ジェンダーと暴力」をテーマとした中学生対象のジェンダーフリー教育を開発することとなりました。そして、これまでに(2005年11月現在)保育所・幼稚園10ヶ所13ワーク、小学校3校3クラス、中学校14校58クラス、高校7校29クラス、教育セミナー(教職員・一般)45講座を実績として請負ってきました。
学校の中のジェンダー
保育所・学校等で出会う子どもたちは、様々なジェンダーを抱えています。
「『男らしくしなさい』と言われる事についてどう思うか?」という問いかけに、「『女みたい』と言われるよりまし」と答えた中学生男子。「○○ちゃん」と呼ぶと、「女みたいな呼び方をするな!」と怒ってみせる幼稚園男児。「女々しい」とバカにされてしまわぬよう、弱音など吐かない男であると自分を奮い立たせていく中で、漠然とではあるものの女より男が上位に立つのだと、いわゆる「男尊女卑」の考えの根っこを心に刻んでしまうのではないだろうかと危惧します。
また、「男の子は泣いたらだめ!」と言い切る幼稚園女児。「こいつは女のくせに生意気」と、数人で1人の女子をいじめる小学生男子など、ありきたりな日常の中で、ジェンダーによる抑圧や力関係が隠れ見えます。
「そこの男子」「そこの女子」と性別で子どもたちを振り分けることで、役割を固定化し、男女間の境界線や対立を生み出してしまう教職員の子どもたちへの対応などが、目に止まることもあります。その延長線上で、男女間ではディスカッションやコミュニケーションが図れなくなっている場合もあり、子どもをとりまく大人たちへの教育セミナー実施の必要性も強く感じます。
「強い男子」「弱い女子」は認められ、「強い女子」「弱い男子」はなんとなく毛嫌いされ、はじき出されて、いじめに発展してしまうケースなども気になることの一つです。性役割による価値観で子どもたちを見た時に、おのずと「良い」「悪い」の評価が生まれ、その評価で自尊感情が傷つけられてしまう事や、そこから生まれる力関係を容認してしまう事、将来の選択肢を限定してしまう事への教育的対処は必要不可欠であるわけです。
子どもたちのセクシュアリティ
それらの性役割による価値観は、あるがままの多様なセクシュアリティをも否定します。女性・男性に分類できないインターセックスという存在は、2000人に1人いると言われながら、あまり知らされていないのが現実です。異性愛以外は異質なものとして、いじめや攻撃の対象になってしまうことも多く、あるがままの自分のセクシュアリティを受け入れられずに悩んでいる子どもに出会う事もあります。身の回りの大人たちに知識や理解がなければ、二次被害が生じ、さらに抑圧してしまうことも避けられません。
また、セクシュアリティにおける男女間の力関係からは、性暴力やDVといった問題も生じており、強者の視点に立つジェンダー社会ではそれらの問題を犯罪としてとらえにくくし、そこでもまた二次被害が生じてしまいます。女性性の商品化、男性性の「精力絶倫」で多くの性体験を持つことが一人前の男であるとするステレオタイプ化が、思春期の子どもたちの意識の中にメディア等を通して刷り込まれていきます。「殴られても彼のことが好きだし、優しい時もあるから別れたくない」と、恋人間の支配とコントロールの関係が「愛」という名でカモフラージュされ、思春期の子どもたちのデートDVもまた、いま取り組まなければならない問題の一つです。
報告書「だれもがありのままのじぶんで」から
SEANが2003年に中高生約840名に実施したジェンダーに関する意識調査からも、子どもたちを取り巻く、あるいは子どもたち自身のジェンダーの問題が表面化しました。
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・90%近くの生徒たちが、「ジェンダー」という言葉や概念を学んでいない。・約30%の生徒がジェンダーにより、自分が否定されたような気持ちになることがあると自覚している。・女性のヌードや水着姿が雑誌や広告に、氾濫していることが嫌だと思っている生徒は65%、男女の内訳はほぼ50%ずつで、実は女性性の商品化を良しとしない男子はたくさん存在している。・もし、いじめられたら「やりかえす」「がまんする」と答えたのは男子の方が、「話し合う」「相談する」と答えたのは女子の方が多く、「男らしさ」の呪縛から男子は非暴力の解決方法を選びにくくなっている。 |
ジェンダーフリー教育の実際
SEA(Self-Empowerment Action)プログラムはロールプレイなども交え、園児〜高校生まで年齢に応じて楽しく参加して学べるワークショップです。@セルフーエンパワメント(自ら1歩踏み出し、本来ある力を引き出す)A多様性の尊重B非暴力の関係(社会)づくりの3つを柱とした、子どもたちを被害者にも加害者にもさせないための人権教育プログラムです。あまりにも日常化してしまっているジェンダーについて、まず知ること、自分で考えること、そして、ワークショップを通して子どもたち自身がセルフーエンパワメントできるよう、生まれもつ力を信じ働きかけていきます。「男は強く、女はやさしく」といったジェンダー規範は力関係を生み出し、その延長線上で支配や暴力が生み出されることがあります。性役割における「強さ」「優しさ」ではなく、尊厳を持った人としての「強さ」「やさしさ」を考える中で、誰もがありのままを大切にされ、活かされ、そして非暴力な関係で多様性を共存していける社会を子どもたちとともに学んでいきます。
子どもたちの感想から
「私は『ありのままの自分』を出していないような気がするので、これからは『ありのままの自分』を出すようにします。あと、友だち、親、家族、自分を大切にしようと思いました。ジェンダーフリーのみなさんに教えてもらうまで、強さ優しさをかんちがいしてたけど、話を聞いて、よくわかったのでよかったです/中1」「授業を聞いて、強さはけんかに使わず人を守るために使います。人には優しくしたいです/中1」「ジェンダーにとらわれずジェンダーフリーのような考え方をすれば、自分のしたい事ができるからジェンダーにとらわれなければ良い。ぼくも、男らしいとか女らしいとかにこの授業をするまでジェンダーにとらわれていたんだとわかった。強さ優しさをもてば関係ないと思う。この授業でジェンダーや性同一性障害などいろいろなことが学べてとっても楽しかった/中1」「授業をしていていろいろとわかったことがたくさんありました。女の子と男の子はわたしは最初、違うと思っていたけど、今日話を聴いてたくましいことは女の子もあるし、男の子だっておとなしい人もいると考えてみると、みんな同じだなと思いました。泣くことも怒ることも色もみんな違うんだなと思いました。それにわたしは自分のことをはっきり言えないので困ったこともあったけど、授業を聞いて今日からはっきり、ともだちにいいたいと思いました/小4」「男の子も女の子もみんな一緒なんだなあと思いました。女の子だから優しい、男の子だからたくましいじゃなくて、女の子もたくましい、男の子も優しい、みんな一緒でいいと思いました。わたしは自分の思ったことをしっかりと相手に言いたいです。自分の思ったことをためといたらイライラする気持ちになるから思ったことははっきり言わなだめなんだと思いました。だからわたしは、自分の気持ちをはっきり言いたいです/小4」「NPOの授業で今まであまり気にしていなかったことが分かりました。そして、今まで僕は困ったことがあっても、友だちやお母さんやお父さんなどの家の人などに相談しなかったのでこれからは相談したいなと思いました/小4」
おわりに
少年院に収容される子どもは、9割が男子です。DVで毎年120〜30人の女性たちが夫から殺されています。「『男は男らしく。女は女らしく』教育すべきだ」と主張する人たちがいますが、問題なのはその性別役割における「らしさ」の定義なのではないでしょうか。性別ありきではなく、個ありきで、誰もが大切にされ、活かされる社会の実現に向かって、たくさんの子どもたちや大人たちと今後も出会っていきたいと思っています。SEAプログラムに関するお問合せは、SEAN事務局
(http://www.npo-sean.org) station@npo-sean.org/Fax072-684-8584まで。